「ことばが生まれる場所」
体験者インタビュー
vol.9
高橋真優さん 1998年生まれ
2022年7月にご参加
ーまずはあわ居に来られたきっかけと、真優さんにとって当日の時間がどのようなものだったか教えて頂けますか?
7月に仕事の長期休暇がとれて、その期間に福井県でひとつ用事があって。福井県の隣の石徹白という場所に知り合いが住んでいるということで、その方にお会いしたいしたかったのと、石徹白という場所も気になっていたので、福井に行くタイミングで石徹白に行くことを決めました。それで、その方に相談したところ、石徹白にあわ居という場所があるということを伺い、参加してみようと思いました。
一言で言うとすごく贅沢な時間だったなっていうのを感じていて。空間もそうですし、お食事もそうなんですが、総合しての時間みたいなところで贅沢だったなぁっていうのが、すごい心に残っています。なんか心地よかったなぁって。眠りにつく瞬間もとても記憶に残っていて、気持ちよかったですね、すごく。リラックスしてたなぁって思います。香りも用意してくださいましたよね。 自分の色んなセンサーが安心をしたのかな。
その時は、仕事をはじめて3年目になったこともあり、仕事にけっこう慣れてきている部分もあり、出来ることも増えてきている中で、だからこそこのまま今の場所で頑張っていきたいのか、別の道も考えるのかっていう所でふわふわしていた時期でした。
ー初日の夜は、そうした仕事についての話を中心にしましたよね。その中で特に印象に残っている場面などはありましたか?
そうですね、、、、話していく中でひとつ自覚できたことがあって、自分自身が一番力が湧いてくるときは、誰でも彼でもというよりは、目の前にいる人に対して向き合っている時というか。『食堂かたつむり(小川糸)』っていう本の話や、接客の話もさせてもらったと思うんですが、この人のためにっていうのが、自分の活力になるんだなぁということを改めて思いました。今まで漠然と、仕事の中で「あ、今は自分のパフォーマンスが高いな」っていうことを思うことはあったけれど、対話の中で、改めてそれを俯瞰出来たというか、言葉に出来た気がします。納得といったらいいんですかね。話していく中で、自分がこれまで達成感を得てきた色々なことがリンクして、自分が力を注ぐベクトルとか対象をちゃんとわかっていると、自分も力を発揮できるし、より相手にもよろこんでもらえるっていうことが整理できた気がします。
ー2日目の朝の時間はどのような時間でしたか?
2日目で一番印象に残っているのは、やっぱり歌ったことですね。なぜ私があそこで歌おうと思ったのかはあまり記憶にないんですが(笑)。たぶん、あわ居の美佳子さんも朝食の時に席に着かれて、3人で話している中で、私がライブで歌を歌うこともやっているっていう話になって、、、、。お二人に自分の歌を聴いてもらいたいって思ったのと、あわ居の空間で歌ってみたいって思ったのかな、、、。ただ、「自分が歌います」って言った時に、めちゃめちゃ緊張したことは覚えています。決してノリだったわけではなく。本当に自分がやりたいことを言葉にする時ってすごい緊張するんですよね。やるべきこととか、こうしておいた方が良いとか、そういうことは全部無視して、本当に自分の中から湧き出たやりたいことをやる時に、私は緊張します。むしろ逆に、迷惑ではないですが、この場の何かを止めてしまうんじゃないかとかも考えてしまって、ドキドキした、、。それこそ、チェックアウトの時間もちょっと過ぎていましたし。歌っていいのかな、伝えていいのかなって。
ー緊張ですか、、、それで、実際に歌われてみていかがでしたか?
緊張については、歌いたいですって伝えた時が一番のピークで。歌い始めの時も若干緊張はしたんですけど、だんだんそれは緩やかにはなっていきました。それで、緊張よりも、気持ち良く歌わせてもらったというか。あわ居の空間がすごく音が響くこともあるし、あわ居のお二人がすごく受け入れてくれた環境でもあったし。ちゃんと届いたかはわからないですけど、歌った後に、美佳子さんから言葉を頂いて。今後も、一人とか、二人とかに対して歌うっていうのは、やりたいなって思いました。歌って正解がないというか。数字で表せないですし、マルもバツもつけられない。ただただあの時、歌を歌えて幸せだったなぁっていう余韻が残った。たぶんあのあわ居での歌の時間は2022年の中でも、印象に残る時間ベストスリーに入ると思います。
ーえー、そうなんですか、、、。何か手ごたえがあったんですかね、、、。
そうですね、、、録音もしていないので、わからないですけど、、、、何かうまく歌えたとかではなく、、、、。私は歌を歌う人で良かったなぁっていうか。すごい幸せだった。
ーあわ居に来られる前とか、その他にもいろんな所でライブをされていると思うんですが、それとはまた違った感じだった、、、、?
そうですね。まず大前提、あわ居で歌う予定はなかったわけじゃないですか(笑)。だから別に誰からも求められていなかったわけですよね。ただただ自分がその時に、「ここで歌いたい・・・!」って気持ちが叶えられました。他のライブとか発表する場っていうのは、「こういう場があるから、歌ってくれない?」って言う風に、基本的には依頼されてやりますよね。または、逆に自分が場所を作って、ここで誰かに歌うぞって決めてやる。その意味では、ひとつ枠があって、そこでパフォーマンスをするという感じ。でもあわ居のあの時間は、何もなかった白紙の状態から、急に自分の中から芽生えた「やってみたい」という気持ちを叶えた時間だった、、、、。なんかすごい自由だったんですよ、何をやっても良かったし、どう歌っても良かったし。別にギターがあったわけでもなく。衣装も勿論ないですし。制限時間もなかった。ただ気持ち良く、心地よくというか、鼻歌のプラスアルファの感じだったというか。
ーいつもよりも、さらに内発的というか。「やりたい!」が湧き上がってきて、それをそのまま表現した。
そうですね。殻の中に雛がいるというか、自分の「やりたい!」が殻の中にあったとして、それがピリピリっとヒビが入って、パカっと割れて、キラキラキラってなったっていうか(笑)。あとは無理をしていなかったなって思います。等身大って言ったらいいんですかね。歌った曲も自分が大好きな曲(『忘れっぽい天使/中村佳穂』)だったし。歌うからには、その人が知っている曲にしなければ、っていうのもその時はなかったので。チャレンジっていうと、今の自分から背伸びをするっていうことだっていう風に言葉として認識しているんですけど、あの時はチャレンジというよりは、ただただ今の自分を等身大で素直に表現した時間だったなって。それをするっていう所に、ちょっとの勇気が必要でしたけど、でも、あわ居という場所や、あわ居のお二人が、ちゃんと聴いてくれるだろうっていう安心感や信頼感があったら、それがうまく折り重なって、実現できたことだったなって。
私がやりたい音楽というか、やりたい表現ができた感じがしたんです。私はこの先、歌で稼いでいくとか、そういう予定は今のところはないですけど、でも歌うことは、とても大切なことで、これからもやっていきたくて。音楽と自分っていうテーマは、私の人生のテーマなんですけど、その中のひとつの答えではないですが、「この時間を忘れたくないな」って思ったんですよね。スキルアップすることを目指す音楽も勿論あると思うんですけど、それも含めながらも、最終的には心から歌を楽しむことだったり、聴いている人も一緒に幸せな空間がうまれるというか。そういう時間、瞬間を作っていきたいって。あの時得た感触は今もちゃんと残っていて、でも逆にあの時間を超える歌は歌えていない、、、。それは全然悪い意味ではなく。あれ以上の瞬間がまた産まれたらいいなとは思うんですけど。
ーなんていうか、解放感があったんですかね??
そうですね、解放感はありました。歌い終わった後に、私は泣いちゃったと思うんですが、それはあえて言葉にするとすれば、解放感だったと思います。溢れてきた。本当は常にそういう風に歌っていたいんだと思います。それが本心。だから嬉しかったっていうのもあったのかもしれないです。
ー出しても良いなっていうオッケーサインを、真優さん自身で出せたっていうことなのかもしれないですね。
その時は考えてもみなくて、これは今思ったことなんですけど、あわ居っていうあの場所ってお二人の想いから出来ている場所でもあるわけですよね、それこそ誰からも頼まれていないじゃないですか。そういう場所だったり、そこでお二人と時間を過ごしたことが、自分をそうさせたのかなって。初日の夜に崇さんと話した時に、崇さんは好き嫌いが激しくて(笑)、割と自分に正直に生きて来た分、失敗やうまくいかないことも多いんだみたいな話をしてくださいましたよね。あとは、美佳子さんがモロッコにいらっしゃった時のお話とかも聞いたりもする中で、自分もそういう風に、自分の本当にやりたいと思うことをやるとか、心に素直に生きるとか、そういう風にありたいなぁっていう風に、思ったんですよね。加えてあの心地の良い空間とか、食事があり。そうした中で、沸々と、自分にオッケーサインを出しても良いのかなって思ったんだと思います。
ー身体がウズウズしたのかもしれないですね(笑)
そうですね。あ、あとは、私接客業をしている割には、あまり喋るのがあまり得意ではなくて(笑)。自分の気持ちを一番表現できる方法が歌だったんです。正直、夜の時間も、崇さんが色々と質問をしてくださることに対して、「私、ちゃんとうまく答えられているかなぁ」とか「困らせてないかなぁ」とか考えていたんですよ(笑)。で、朝はもう少しリラックスしていた気はするんですけど、でもやっぱり喋るのはそれほど得意ではないから、「私はこういう人なんです」っていうのを知ってほしくて、歌を歌ったんですよね。
ーなるほど。対話の中で「困らせてないかなぁ」とかこちらのことを気にされている感じがあった一方で、でもそういうのは関係なくて、ど真ん中にストレートを投げ込むように、「歌うぞ!」ってなったっていうのは、ある種、真逆の傾向とも言えますね(笑)。その両極端があの2日間の中で出た(笑)
そうですね(笑)。たぶん元々の性質としては、後者が私なんだと思います。わがままですし、自己中心的ですし。今ちょうど実家に戻ってきているんですけど、家族と過ごしていると本当にそう思います。それに人生振り返ってみても、基本的には好きなことをやってきたと思うので。だから、素が出た、素が出せた時間だったと思います。旅っていう非日常の、それも全然知らない土地で、素が出せたっていうのは、すごくありがたかった。だから私はお二人やあわ居という場所にすごく感謝をしていて。どうしても旅をしていると、色んな、イレギュラーがあって、いろいろとストレスがかかりますよね。人や環境もはじめてで。そうした中で、あのあわ居での時間、あの歌の時間だけは、本当に素になれたなって。すごくほっとした。
インタビュー実施日:2022年10月31日
聞き手:岩瀬崇