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〈異〉と出遭う場所

 

 

2019年にあわ居の運営をはじめてから、早いもので5年が経過しました。この間、新型コロナウイルスの動乱にも多分に影響を受けながら、オープン当初の民宿として形態を止め、現在の形態での運営に舵をきりました。もともと、あわ居にはオープン当初からある程度の方向性のようなものはありながらも、しかしそれをどう実際の運営に落とし込んでいけるかはまったく定かでなく、常に試行錯誤を繰り返してきたように思います。宿泊を伴う場ではあるものの、「宿」と言われると猛烈な違和感があるし、かといって「どんなことをされているんですか?」と問われても、端的に言い表せる言葉が見つからない。どちらかと言えば、この5年間は、「あわ居とは一体何をする場所なのか?」「私たちはここで何をしているのか?」ということを、主に口コミを介してご来訪頂くお客さんとの相互作用の中で事後的に自覚したり、かみ砕いていく期間だったのかなという風に今は思います。その意味では、この5年間は、あわ居のことを、また自分たちのことを動的に研究するような、「自分たちは一体ここで何をしようとしているのか」を自覚していく時間だったのかもしれません。その間、あわ居を言いあらわすために、「余白の時間」とか「いまを見つめる場所」といった語句を都度選びとってきました。

 

しかし、特に昨年から今年にかけて、今一歩自分たちやあわ居について深く自覚しなければいけないと実感する機会があり、今まで「(自分たちにとっても)よくわからない」と言って片づけてきた、あわ居という場所の特性、またそこで用いられている各技法に共通することを、アート教育、臨床教育学、人類学、芸術といった領域の知見を吸収しながら、言語化する作業を進めてきました。

 

そうした作業と並行して、実は現在あわ居ではあわ居のビジュアルブックであり、記録集であり、ガイドブックであり、作品集でもあるような、概要紹介、写真、体験者インタビュー記事、各専門家との対談記事などにより構成される、あわ居を重層的かつ俯瞰的に紹介するような書籍の制作を進めています。書籍に掲載する各コンテンツの詳細も概ね決まり、原稿を実際に書き進めていく作業をする中で、先日ふとあわ居というのは「〈異〉と出遭う場所」なんだなという考えが起こり、それは自分にとって非常に腑に落ちるものでした。「〈異〉と出遭う場所」が意味するところについては、書籍に掲載予定の文章をやや簡略化したものを、ホームページ上の「わたしたちについて」に記載しましたので、ぜひそちらもご覧いただければ幸いです。また、まだ仮決めではありますが、書籍名についても『あわ居-〈異〉と出遭う場所-』で進めていこうと思っています。刊行は来年春~夏を目指して制作をすすめていきます。楽しみにお待ちいただければ幸いです。

 

そして「〈異〉と出遭う場所」というあわ居への理解が進んだことで、自分の中ではこの5年間の期間が、実践を通しての「研究」期間であったのだなということを自覚しました。「研究」という言い方がややおおげさである、あるいは本来的な意味とやや齟齬があるのだとすれば、自己理解の期間であったと書いても相違ありません。なにはともあれ、とりあえずこの5年間の探求はひと段落したのかもしれない。すると不思議なことに、自分の中で、書籍というツール以外においても、あわ居を外に発信していきたいという気持ちが強くなってきたのです。

 

「研究」や自己理解の期間というのは、興味のベクトルが、実験することそれ自体や、試行錯誤を繰り返すこと、その中で調整すること、軌道修正し、その都度知見を更新していくことにおそらく向いています。だからこそ、この5年間は、あわ居の情報発信をするということにまったくと言って良いほど興味が向いていなかった。情報発信というのは「私たちにはこれが出来ます!」「私たちはこれをしています!」ということを十分に自覚した上で、それらのことを土台にして、他者と関係性を紡ごうと営為なのだと思います。その意味では、私たちはこれまで「私たちにはこれが出来ます!」「私たちはこれをしています!」といったことの自覚が十分には出来ていなかったということになります。

 

しかし、こうしたプロセスを卑下しているわけでは決してありません。本当に根源的なところから何かを制作し、それを形にしようとすれば、言語化が難しい状況が続くこと、わからないという事態に晒されること、自分にとっての未知を抱え続けながら試行錯誤するといった部分は決して避けることが出来ないからです。こうした孤独な作業を抜きにして、未だ社会の中で言語として価値づけられていない技法や表現を探求していくことはおおよそ不可能だと私は思います。

 

こうしたことを背景に、まずはこれまで一切手に付けていなかったinstagramX(twitter)facebookといったSNSを開始しました。またホームページ上で「雑記帳」を開設し、最新のあわ居の動向や情報、考えていることなどを書いていければと思っています。客観的に見れば、亀のような愚鈍な歩みなのかもしれませんし、最初から普通にやっておけば良かったのに、、などと思われるかもしれませんが、自分たちにとっては確かな実感と納得が伴った、重要な一歩です。大変長くなりましたが、「〈異〉と出遭う場所」としてのあわ居を、今後ともどうぞよろしくお願いします。

 

 

岩瀬崇