体験者インタビュー集

 

 

vol.7

木下麻梨子さん(1990年生)

木下佳祐さん(1989年生)

2022年4月にご夫婦で「ことばが生まれる場所」を体験

 


 

佳:佳祐さん

麻:麻梨子さん

 

 

 

ー「ことばが生まれる場所」にご夫婦でご参加頂いてから、約1ヶ月ほどになりますが、当日の時間はお二人にとってどのようなものでしたか?

 

 

麻:

もともと申し込みをさせてもらったのは私だったので、当初は、私自身が今後どう生きていきたいだろうかという部分についてのお話をひとつしたかったのと。あとは郡上市に移り住もうと私が言っている中で、「佳ちゃん(佳祐さん)は本当にそれで良いんだろうか」という部分の話が出来ればいいなぁと思っていました。当日お話していく中で、「どちらかというと、二人の関係性やお互いに思っている部分の話を、しっかり対話した方が良さそうですね」と崇さんが言ってくれて、二人の話や、佳ちゃんが本当はどう考えているのかという話に移行していきました。

 

普段、二人だけで話しても、なかなか難しいところがあるんですよね。私が「どうかな?」って聞いても、佳ちゃんは「大丈夫」とだけ返答して、そこで終わってしまう(笑)。でも、あわ居で崇さんや美佳子さんが入ることで、「本当にそう思われていますか?」という形で彼に突っ込んでくれたり、私たち二人の対話の流れをサポートしてくれたりする中で、じっくりとお互いの思っていることを出しあえた。そこが自分の中で大きかったなぁって思います。あわ居の雰囲気に加えて、石徹白という場所が持つ力もあると思うんですが。あそこだから話せた側面もあったんじゃないかなって感じています。勿論、思っていたことの全部が解決したかって言われると、そうではないんですけど。でも私がその時に気になっていることは聞けたし、佳ちゃんとこれからどう歩んでいこうか、二人で考えるきっかけになりました。はじめの一歩を歩めたという感覚がありましたね。

 

 

僕の場合は、あわ居について「色々話す場所だよ」という程度にしか聞いていなかったので、正直ちょっとびっくりしましたね。結構長い時間喋るんだなぁと(笑)。でも居心地はすごく良かったです。普段住んでいる家で、二人でご飯を食べていても、あの時のあわ居でしたような話は、これまでしたことがなかった。僕が自分のことを自分から話すことなんて、滅多にないんですよね。いつもは、りぃちゃん(麻梨子さん)が九十パーセント話して、僕は十パーセントくらい。普段はそれが僕にとって心地良いから、それで良いと思うんですけど。ただ、りぃちゃんからすれば、あまり僕のことを知れないっていう残念さがあるのかもしれない。その辺りの、りぃちゃんの気持ちが、あわ居の時間を通して少し知れた。あとは僕自身に対しても色々と質問をされたり、じっくり話を聞いてもらうことで、自分の気持ちや思っていることを言葉にする良い機会になったなぁと思います。

 

 

これまでぐっと踏み込んだ話をしてこなかったんだと思います。自分自身にも踏み込んでほしくない場所があって。そこに踏み込まれそうになった時に、私は少し距離を置いてしまいたくなってしまう。だから佳ちゃんに対して、もし私が嫌な踏み込み方をしてしまったら、同じように距離が出来てしまう気がするから、そうなるのは嫌だなぁって。だからどう踏み込んだら良いのかわからず、じたばたしていた所があった。

 

でも、あわ居で話したことで、「あ、ここまで聞いて良いんだ」って分かったり。逆に「ここまで踏み込んで話をしていかないと、これから二人で関係性を築いていくのは難しいだろうなぁ」って思いましたね。結婚してまだ一年も経っていなくて、夫婦っていうよりかは、まだカップルなんだなって。これから共に歩んでいくパートナーなんだっていう所に対して、自分の中でも少し意識の切り替えがありました。「嫌われたくないから、ここはつつかないでおこう」ではなくて。ちゃんと二人で歩んでいきたいからこそ、踏み込んだ話をするのって大事なんだなぁって。お互いが「こういう話はした方が良いよね」っていう部分の認識についても、すり合わせが出来たんじゃないかなって思います。

  

 

ただ、話していく中では、怖さのようなものも感じて。「これ以上踏み込んで、関係性が壊れたらどうしよう」っていう恐怖ですね。私は親とも、友達とも、仕事仲間とも、喧嘩が苦手なタイプで。仲直りの仕方が分からないんですね。佳ちゃんともこれまで喧嘩をしたことがない。だから、この話をし続けて、彼との関係性が壊れてしまった時に、どうやって関係性を持ち直して良いのかがわからない。だから対話が展開していく中で、「あぁどうしよう」って気持ちがうわぁーって沸き起こっていた。

 

でも、後から「あ、私は今まで嫌われるのが怖くて、そこに踏み込めていなかったんだな」っていう気づきもありました。それで、次の日の朝に二人で散歩した時に、「楽しいことは二倍に、つらいことは半分に」っていう自分がイメージしている家族の形の話をしました。しんどいことを片方が抱えているっていうことに対しての、自分の中での違和感や淋しさがあったから。

 

 

僕自身は、あまり踏み込まれたなぁっていう印象はないんです。元々、自分の中に話したくないことはないと思っているから。でも、今まで話したことがないから、どうそれを言葉にして良いのかがわからないっていうことは、たくさんある。「本当にそう思っているんですか?」って深く突っ込んでもらえたことは、たぶんここ十年くらいなかったような気がしていて。すごく久しぶりな感覚でした。自分起点で深い部分を話すことはないけれど、でもどこかで「知ってほしい」っていう風にいつも自分は思っているので。そういう意味で、自分が話したくないことを聞かれた場面はなかったかなぁって。自分の中の言葉に出来ていない所を言葉にすることを手伝ってもらっていたっていう感覚ですかね。

 

 

 

ー言葉にすることを手伝ってもらっている感覚があったというところについて、もう少し詳しくお話を伺いたいです。

 

 

 

まずは空間が大きいですよね。石徹白の雰囲気もそうですし。あわ居の扉を開けた時の印象や、館内の照明、料理、静けさ。環境すべてが、落ち着いて話が出来る空間だったなって思います。

 

 

麻:

あとは、普段の食卓もそうなんですが、相手と向かい合っていると、相手の顔を見て話すことになるから、けっこう緊張するじゃないですか。だけど、あわ居だと、隣に崇さんがいて、前に佳ちゃんがいる配置だったので、少し話しにくいことは、崇さんの方を向いて、崇さんに投げれば良い(笑)。直接のボールの投げ合いが夫婦間で行われるんじゃなくて、崇さんを経由することでキャッチボールがちゃんと出来た感じがありましたね。私は感覚的に伝えてしまうタイプで、話を聞いたけいちゃんが「よくわからないなぁ」と理解できないことがよくあるんです。でも、そこに対して、崇さんが「それはこういうことなんですかね?」って言い換えを促してくれたり、伝え返しをしてくれましたよね。通訳って言えばいいのかな、そういう要素があったから話しやすかったんだと思います。特に佳ちゃんはそうだったんじゃないかな。

 

 

そうですね。崇さんが通訳してくれていた感じがする。例えば、りぃちゃんの言葉を、崇さんが言い換えをして、それが僕に届いてくるっていう感じ。

 

 

麻:

そうですね。あと、今話していて思い出したのが、私が佳ちゃんに対して「こうなんじゃないの?」って聞いた時に、佳ちゃんは「そんなことないよ」って返答をしてきて。それに対して私は「あ、そっか」と納得して、そこで話が止まってしまった場面がありましたよね。その時に、崇さんが、「本当はどうなんですか?」って彼にツッコミをいれたり、踏み込んでくれた。第三者だからこそ見える違和感を感じつつ、そこをちゃんと場に返してくれていた感じがありました。だから、二人だったら「あ、そっか」で終わってしまっていた対話が、ちゃんと展開していった部分があったのかなぁって思います。

 

これまで「あ、そっか」で終わってしまっていたのは、それ以上踏み込んで「嫌われたくないなぁ」っていう気持ちがあったのと、もう一つは踏み込む言語がなかったからですよね。本当は聞きたいことがあるんだけど、どうやってそれを引き出せば良いのかがわからなかった。だからあきらめてしまっていたんだと思います。例えば「うん、そうだよ」って返事があったとして、その言葉の裏にもいろんな思いがあるわけですよね。その裏を聞こうとして質問をするんだけれど、違う部分に対しての返答をされてしまって。「あ、聞きたいのはそこじゃないんだよ」って(笑)。あわ居からの帰り道に車で佳ちゃんと話していたのは、「りぃちゃんは質問の仕方が下手くそだよね」っていうことでしたね(笑)。その言葉をもらったので、そこは頑張りたいなと思っています(笑)。

 

 

ーそれまで運用してきたお二人のコミュニケーションのパターンがあったとして、あわ居の時間の中で、そのパターンの故障個所が見えたり、更新するきっかけのようなものが見えたという感じもしますね。

 

 

そうかもしれないですね。あ、あと今ぱっと浮かんだのは酵母菌ですね。酵母菌が入ると醸造や発酵が起きるじゃないですか。あわ居は、そういう発酵するための媒体のような感じでしたね。酵母菌が入ることで、全然違うものが生まれてきた感じがありました。

 

 

ーそうした時間があわ居であった中で、この一ヶ月程でなにか日常の中に変化などはありましたか?

 

 

麻:

あわ居の時間があって、直接的にこうなったということは言えないんですけど良いですか。

 

 

ーはい、勿論です。

 

 

麻:

まずは8月に郡上に移住することを決めました。8月に移住、9月に結婚式をします。移住や結婚式にあたってのお金の話とか家を買う・買わないといった話を、二人でちゃんと向き合いながら、最近し始めています。あとは、私は「tsumugi」というお店を月に1回のペースで運営しているんですが、それを郡上でどうするのか、また、次の仕事をどう作っていくかという部分に対しても、二人で話をしていて。その中で少し感情的になることもあるんですが、その感情的な部分に対して「こういうことだよ」って伝え直したりするようにしていて。なるべく諦めない形でコミュニケーションをとろうっていう意識の変化はあったように思います。

 

あわ居に行く前は、「佳ちゃんが本当はどう考えているのかわからない」っていうマインドでいたんです。でもあわ居の時間を通して、佳ちゃんが私のことを純粋に応援したいと思ってくれていることがわかった。一方で、あわ居の対話の場でも少しお話しした、佳ちゃんの奥底にも本当はやりたいことがあるんじゃないかという部分については、例えば移住先の郡上で出会う人や周りの人との関係性の中で、彼の中にやりたいことが芽生えるんじゃないかと考えることができるようになりました。これまでは、私と佳ちゃんとの関係性の中だけで、それを解消しようって思ってしまっていたんだなっていう気づきがありました。

 

対話の中で「仕事の悩みや相談したいことは友人に話してるし、りーちゃんにはその部分は求めてない」とけいちゃんに言われて、少なからず、その時はショックだったんです(笑)。でも全部が全部、自分が担わなくても良いんだよなぁって言う風にも思えてきていて。そこの荷物を降ろして、その上で、じゃあ私として、どう佳ちゃんと関わっていけるかなぁという所に視点が移ってきていますね。私と佳ちゃんが向き合うんじゃなくて、私と佳ちゃんで、どういう未来に向かって行けるかなぁって。これまでは、私と佳ちゃんが向かい合って、私が佳ちゃんに対して何をしてあげられるんだろうって思っていたんですよね。でも今は、私が佳ちゃんの全部を解決するとか、良い方向にもっていくとかするんじゃなくて、夫婦としてどういう関係性や暮らしを作っていけるかなぁっていう風になってきています。

 

 

未来の話をすることや、二人で一緒に考える時間が増えたなっていう風には思いますね。それがあわ居の時間を通してなのか、これから移住や結婚式が控えているからなのかはわからないし、どちらもあるとは思うんですが。

 

 

ーまずは一緒に考える時間が増えたということですね。その時の話し合い方については、何か変化などはありますか?

 

 

麻:

そうですね・・・。その先を問いかけたり、掴みにいくやりとりはまだ完全には出来ていないかもしれないですね。例えば「今日どうだった?」って聞いて、「良い感じだったよ」って返ってくる。その「良い感じ」の裏にあるものを、より深く問いかけるコミュニケーションは、まだしっかりとは出来ていないと思います。でも、自分自身が嫌われたくないから、ここで話をストップしようっていうコミュニケーションのやり方は捨てて、ひとつ踏み込んだ質問をしていこう、先を掴みに行こうっていう気持ちは前よりも確実に出てきています。あとは、あわ居での時間の中で、自分自身が本当に思っている所であったり、弱い部分の気持ちもさらけ出すことが出来たから。そこは割とスムーズに話せるようになってきていますね。「ここは淋しく思ったよ」とか「あの時のあの言葉ははひっかかっている」とか、今までだったら言わなかったことも、ちゃんと意識して伝えることが出来ているのかなぁ。まだ一ヶ月しか経っていないので、全部が全部そうではないと思いますけど。

 

 

そこに対しては、僕は正直、そんなに変わっていないかもしれないなぁ。

 

 

麻:

でも、自分のことを喋ろうとしてくれているのかなぁっていうのは感じるけどね。あとは、私が悩みを相談したときにも、「それはどうしてそう思うの?」とか「もっとこうしたら良いんじゃない?」みたいな形で、かなりがっつり指摘をしてくれるよね。今までだったら、ツッコむと私が不機嫌になってしまうから、不機嫌になるくらいならツッコまないっていうパターンになっていた。だから私がご機嫌でいるために、佳ちゃんは「うんうんそうなんだね」って聞いてくれてたんだと思う。でも、最近は、そういうコミュニケーションが減っている印象がある。多少私が不機嫌になっても、より良くなるためにはどうすれば良いのか、お互い入り込んで話をしたり。

 

 

そうかなぁ・・・。もしかしたら変わってきているところはあるのかもしれない。自分としては、そこまで意識して変えている感じはないですし、意識的にこうしようってやっている部分はあまりないけれど。でも、もしかしたら無意識のところで、コミュニケーションのやり方が変わったのかもしれない。僕が気づいていないだけで。あとは、りぃちゃんのコミュニケーションが変わったから、僕もそれに応答する形で、変わった可能性はあるのかも。でも僕の内面の話は、あの後も2人ではそんなにしていないですね。そこに関しては、これからやっていくことなのかもしれないです。

 

 

 

ーなるほど・・・。あと少し興味があるのが、佳祐さんはご自身の言葉になっていない所を、省察し、言語化する場面があわ居の時間でたくさんありましたよね、それは普段はあまり使っていない筋肉を使う感覚だったのではないかと推察します。そうした中で、自分の奥底にある気持ちとの関わり方について、その後、何か変化はありましたか?

 

 

自分でわがままに生きるとしたら、どんなことをしたいかなぁ、どう生きていきたいなぁって考える時間は増えたような気がします。考えはじめたら面白くて、わくわくする。その結果として、「こんなことやったら楽しそうじゃない」って、りぃちゃんに伝える回数は増えた感じがします。

 

 

麻:

たしかに、「郡上でこんなことやってみたら面白そうだよね」とか、「りぃちゃん、こんなことやってみたら」とかっていうアイデアがぽんぽん出てきていますね。前はそんな話はあまりしなかったけど。今は郡上に一緒に行くっていう共通の話題があることで、そういうやりとりが増えたのはありますね。

 

 

少し変な言い方になるかもしれませんが、これまでの生き方や働き方を継続させていくのであれば、そういったコミュニケーションが必要でなかったとも言えるのかもしれないですね。郡上に移住するってなった時に、これまでとは違う夫婦間でのやりとりや関係性が必要になってきているタイミングだったのかもしれない・・・。

 

 

 

麻:

そうですね。今聞いて思ったのが、あわ居に伺ったタイミングって、まだ郡上に移住することを百パーセント決めていたわけではなくて、七割くらいは行きたい気持ちがありつつ、でも残り三割では「本当に住めるんだろうか」という気持ちもあったんです。それで一週間郡上に滞在してみて、それを確かめてみたいっていう所が大きかったんですね。それで、二人で郡上に住むことを具体的に考えるってなった時に、「彼の本心がわからないなぁ」とか、「ここはちょっと切り出しづらいなぁ」だったり。このままの自分や二人の関係性では良くないんじゃないかと感じていて。それもあって、あわ居に行きたいと思ったんです。そういう意味では、あわ居での時間が、夫婦関係で気になっていた部分を捉え直すだけでなく、移住に向けてもいい形で作用したなと思っています。

 

 

 

インタビュー実施日:2022年5月29日  聞き手:岩瀬崇