「あわ居別棟」

滞在者インタビュー

 

vol.1

浅見さんご家族:

父:孝二さん(1976年生まれ)

母:亜津子さん(1977年生まれ)

  長男:陽平くん(2012年生まれ)  


概要

 

2022年の1,2、3月にかけて、3ヶ月続けて、それぞれ2泊3日で、あわ居別棟をご利用くださった浅見さんご家族。父、母、息子の3人家族で、小学3年生(2022年3月現在)の陽平君は、教師からの過度な叱責がきっかけで、小学校を不登校になってから1年以上が経過していた。あわ居は元々その事情や背景を共有していたため、別棟滞在に合わせて、陽平君やご両親の意向、都度の様子を汲み取りつつ、その時の陽平君にとって最適な時間になるよう、適宜複数のオプションの提案を行った。オプション実施の判断はご家族(主に陽平君)に委ねた。実際に実施されたものとしては、石徹白地区在住で、子どもの場づくりを専門とする加藤健志郎さんと2人で一緒に雪で遊ぶことや、加藤さんと一緒にカレーを作って食べることなど。その流れの中で、放課後に石徹白の小学生と加藤さんが集まって遊ぶ場に、陽平君が加わり一緒に遊ぶということも生じた。3月の滞在時には、加藤さんとあわ居の岩瀬美佳子同伴の元で、あわ居から車で10分のスキー場に行き、人生はじめてのスキーに挑戦。陽平君にとっては、初のチャレンジにも関わらず、うまく滑ることができるようになった。加えて、3月末に加藤さんの家で開催された、石徹白小学校の子ども達によるお泊り会に、陽平君も自ら率先して参加し、交友を深めた。


 

孝:孝二さん / 亜:亜津子さん

 

 

ー2022年の冬から春にかけて、3ヶ月続けて別棟に、それぞれ2泊3日ご滞在頂きました。滞在の背景からまずはお聞かせいただけますか

 

 

孝:陽平のことがまずは大きな背景としてありました、何か新しい体験をさせてあげたいなぁというところが最初かな。

 

亜:陽平は、家の中で過ごしているっていうのが日々の生活だから。家の中なら安心して過ごせるっていう部分があって。あわ居別棟が、一棟貸ししてもらえるという部分で、自宅の環境にとても近いんじゃないかって。

 

孝:陽平が不登校になって、一年以上になるけれど、基本は家でゲームしたり、好きな動画を見て楽しんでいるっていう生活がずっと続いていて、親心として、ちょっと家の外でも 何か体験してほしいなっていう風に思うところがありました。かと言って、いきなりキャンプに行こうとか、山に登ろうといったことは、その当時の陽平にはまだハードルが高い状態でした。家で過ごすような感じもありつつ、でも普段とは違う環境の中で過ごす、というのは楽しいんじゃないかなって想像ができました。

 

亜:無理な働きかけはしないという環境ではいたかったですね。外に出ようとか、外に出た方が良いよ、家ではできない体験をしようとか。親としては、頭ではそうしたいけれど、それはやらない方が良いっていう経験が、不登校になってからの1年ほどを通してあったから、そういう働きかけはせず、でも少しいつもとは違った環境を作れるっていう所に興味がありました。自然体でそこに参加できるなっていう。

 

孝:だから、最初にあわ居別棟に泊まりに行こうっていう時も、陽平には、前に行ったことのある石徹白のあわ居の隣に、新しく別棟ができたから、そこに泊まりに行こうって言っただけだよね。

 

亜:陽平は、嫌な所や興味のない場所だと、嫌だとはっきり言うので。彼が行くって言っている所って、もう彼にとってはOKなところなのだと思います。もともと陽平はホテルや宿泊先の空間を楽しみにしているところがあるし、旅行が好きだから、そういう面でも大丈夫だなという部分がありました。あわ居の岩瀬さん達との間柄もありましたし、あわ居本棟も体験していたから、そういうところでの信頼感もありました。だから、陽平を連れていくことに対してのハードルが低いというか、何もハードルは感じていなかったかな。そういう行き先が、なかなかないんですよね。

 

孝:陽平をどこかに連れていきたいなって思ったときに、例えば、子どもたちが楽しめる仕組みが既にできている所がありますよね。用意されたものに、人がたくさん集まっている、そういう所が陽平はどうも苦手なようなんです。その場所まで行ったとしても、そこで過ごしている人たちを見て、車から降りたがらないこともありました。不登校になってからですけどね。

 

亜:たぶん、サービスを提供している所が苦手なんじゃないかな。自分で決めたいっていう願望がずっとあるのだと思います。人に決められたくないっていう。だから、あわ居に別棟が出来るんだって聞いた時に、家族3人全員が、違和感なく同時に行こうって決められた感じがあったから、陽平にとっても、誰かに決められたわけではなくて、決断の仕方がすごく良かったかな。ちょっと挑戦という感じ。本人もすごくわくわくしていたと思います。

 

 

-新しいチャレンジというか、日常とは少し違った体験をする場所として、割とハードルが低く、すんなり入っていけた部分があったということですね。その中で、実際に滞在されてみていかがでしたか?

 

 

亜:一回目に滞在してから、とにかく雪(*1)が最高だって。「雪があるから行く」っていう表現を陽平はしていました。だから、一個でも惹き付けられる何かがあれば安心な場所になるんだなぁと。雪がポイントだっていう風に、陽平がなったのがちょっと不思議で。石徹白の子ども達がいるからとか、加藤さんがいるからとか、別棟に泊まるのが楽しいからとか、いっぱい理由はあるはずなのに、雪っていうワードがいつも表現の一個目に出てくるから、面白いですよね。

 

孝:そうだね。でも、僕らから見てもずっと雪で遊んでいたなぁっていう印象がある。初めて行ったときは、陽平はipadを片手に持っていましたね。あわ居の人達とコミュニケーションをとる時も最初は緊張していた。でも雪を触り始めたら、普段ずっとゲームをやっている陽平が、ipadの存在を忘れて夢中で雪で遊んでいた。よっぽど楽しかったんだろうなって。

 

亜:最初はあわ居の岩瀬さんの長女のまこちゃんと遊ぶっていうのを楽しみにしていたんじゃないかなって思います。ipadを持ってまこちゃんと遊ぶっていう。色んなことに少し警戒している、緊張している、だけどまこちゃんと遊ぶのが楽しそうっていう状態だったんじゃないかな。それで、辺り一面が雪の環境の中で、まこちゃん達がどう雪と関わっているか、どう遊んでいるのかを見ながら、雪遊びを覚えたり、加藤さんとも雪で遊びつつ、、、、。それで、いつのまにか、石徹白の他の子達とも雪で遊ぶようになり、、、。その輪の中にもすっと入れたのかなって感じがしますね。家に帰ってきてからも、石徹白の他の子どもたちに対して、「みんな今頃、学校に行ってるね」って言っていたりもします。石徹白の子達がどうしているか気になったり、身近な存在として感じているんだなって。何度か行った後は、行くたびに、過ごす時間が増えるたびに、彼の中で、石徹白の雪や、子ども達、あわ居、加藤さんに対しての存在の感じ方が、どんどん変わっていったんじゃないかなって思います。警戒もしない場所になっていたと思うし、信頼できる場所になっていったんだろうなって。少しずつ変わっていったんだろうなって。

 

 

-陽平君の変化というところで、別棟に滞在された後、自宅にいるときの様子や過ごし方になにか変化は感じられますか?

 

 

亜:そうですね、、、、、。なんかほんとにちょっとずつ、、、、、。なんて言えばいいのかな、「家だけじゃないんだ」っていう感覚は持てたんじゃないかな。今も家にずっと居るのは変わらないんですけど、でも面白い場所があって、そこにだったら行ってもいいなっていう気持ちが前よりはちゃんとあるんだろうなって。

 

孝:言語化するのは難しいんですが、あわ居別棟や石徹白に通った後で、「なにか抜けたな」っていう感じがあって。どう抜けたかを説明するのは難しいんですが、、、、。自宅に居ても、すごく楽しそうにしてたり、鼻歌をずっと歌っているんです、最近ずっと。前から、家にいると安心するっていう表現をしていて、家では安心して過ごしていたんだけれど、抜けたなって思った後からは、安心に加えて楽しそうですね。

 

 

-どのくらいのタイミングでそう感じられましたか?

 

 

孝:うーん、、、、、、。でも最初に別棟に行った時からかなぁ。帰ってきた時に、すごい元気に帰ってきたことを今思い出しました。僕はいつも1泊だけして、2人よりも先に帰ってくるから、家で一人で待っていたんだけれど、陽平がどんどんどんって足音立てて、すごく元気よく階段を上がってきて。すごい楽しそうに帰ってきたのが、一回目からあったなぁって。すごい変化があったと思うなぁ。

 

亜:その頃、私達二人でよく話していましたね 。陽平は石徹白でたくさん充電してきてるねって。エネルギーを充電してきたって。石徹白に行くたびに。やっぱり自宅での生活にないものがあるっていうところですかね。日常だと、家の中が安心する場所なんですけど、石徹白だと全域が安心出来る場所な気がしますね。家の外も安心できる場所っていうか。加藤さんとか、石徹白小学校の子ども達とか。

 

孝:家の外でも安心出来る場所があるっていうのを、知ったっていうことなのかな。

 

亜:家の中だけが安心する場所だったけれど、そうじゃない安心できる場所を体験したというか。住んでないからこそ思えるのかもしれないし、限られた日数だからこそ思えるのかもしれないけれど。あとは、別棟での私たちの生活の仕方も普段と違うし。自宅だと仕事優先で。あ、あと一個、明らかに今までにない様子を見せたことがあって、それが2回目に石徹白に行って帰ってきた後かなぁ、「つまんない、つまんない」って一日中家で言っていました。「やることない、うぉー」っていう日が一日あって。「あぁ面白いなぁ、なんか陽平の中で変化が起きてるんだなぁ」って、私は嬉しかったですね。今までにない状態だったから。本人はイライラしてましたけど、何か抜けるときなのかなって。わからないですけど、現実逃避したくて、こもっている部分もたぶんあったのではないかなという気がする。あまり何も考えないで、それを続けていたけれど、ふと、まわりを見渡せたっていう所があったのかなぁ。

 

 

ー少しひいて、自分を見られた感じもありそうですね。

 

 

亜:そうですね、、、、、。日々過ごす中での、陽平の心のうちにどんな変化があったのかは明確にはわかりかねますが、、、、。もしかしたら前は、心理的に逃げる方法として何かを選択していた可能性もあるのかなという気もしていて。例えば同じゲームをするにしても、今は何か目的を持って、やっている感じがしますね。こういうことを知りたいからこれを見る、この方法をあえて選ぶっていう、そういう感じはするかなぁ。

 

 

ー能動性が垣間見えるというか。

 

 

亜:そんな気はしますね。あとは私自身、石徹白に行って、陽平の変化を見たり、新しい陽平の一面を見つけられるようになったから、私自身が前よりも不安じゃないんです。何をしてあげたら良いんだろうとか、親として何か足りないんじゃないかって思ってたのが、「あ、大丈夫だな、このままで」って、今は思える。不安がなくなったわけではないけれど、そういう考え方をすることがだいぶ減ったかな。そうすると、彼の前での私も変わってきますよね。そういう相乗効果もあるのかなって。それはやっぱり元気な陽平を見れているからかなぁ。元気な、というか変化していく彼の様子を見ることで、「これからも変化していくんだなぁ」っていう確かなものを見られた。勿論それは頭ではわかっていたから、見守ってはいたんですけど、腑に落ちたって感じですね、こうやって見守っていけば大丈夫だって。正直まだ100%ではなくて、どこかで何が足りないんだろうって考える癖はあるんですが。でも、格段に楽になりましたね。

 

 

-石徹白の子や、自然、加藤さん、あわ居などに委ねた、任せられたという所もあるのでしょうか?

 

 

亜:それはありますね。ここにさえ行けば、何か切り替えられるっていう場所が見つけられた安心感があります。もし、陽平がまたモヤモヤってする時期があったりとか、自分にモヤモヤってする時期があっても、石徹白やあわ居に行けば、またスイッチを切り替えられるなぁっていう安心感が自分の中に確実に出来ていますね。一個見つけられたから、探せば他にも見つかるかもっていう気持ちも出てくるし。陽平を中心とした我が家にとっての出口が一個見えたって感じですかね。

 

 

孝:あわ居別棟に行く前も、陽平が何かを体験できる場所ということで、例えばフリースクールに行ってみたりとか、市が運営している不登校の居場所みたいなところ、あとはプレーパークに連れていったりもしました。ただ、彼のタイミングに合わなかったというのもあると思うんですが、またそこに行ってみようとはならなくて。 そういう中で、石徹白は陽平も100%楽しめた感じがあったし、また行くだろうと思います。そういう場所ができたなぁっていう安心感がありますね。

 

 

ー安心感ですか。

 

 

亜:それまでも、どうしようかなあと思って、あちこち、話を聞きに動き回っていたんです。 でも、ノンジャンルの場所ってあんまりないなぁって。そういう中で出会ったあわ居を中心とした石徹白を考えると、どれだけでも対話させてもらえる安心感みたいなものがありますね。陽平のことに関しても、自分達個人のことに関しても。たぶん、もっと話したいですって言えば、どれだけでも話してくれる気配がある。石徹白やあわ居はそうした気持ちの上での安心感も持ちつつ、陽平が安心して身を置ける場所なのだと思います。陽平はやっぱり敏感な子だから、良い感じで、陽平が素のままでいられる場所なんだと思います。場所としての安心感もあるし、私自身の精神的な安心感もある。両方ですね。

 

 

孝:陽平は居心地が良いんだと思うんですよ、石徹白が。これはあくまでイメージですが、不登校と言うと、  働きかけられる子どもみたいな感じにどうしてもなってしまっていそうで。そういうのが石徹白にはないですよね。あとは、僕ら両親がそこで安心してリラックスしているっていうのも大きいかもしれないですね。それが陽平にも伝わっている部分もある気がする。母親が不安定な時に、陽平も不安定になるっていうのを、僕はずっと見てきたから。母親が安心して、リラックス出来ているのも、陽平の安心になっているんだと思う。

 

 

 

ーあわ居別棟に目的性がないということが、良い作用に結びついた可能性はありますね。でも同時に、僕らや加藤さんは、陽平君の状態とか、そこに向き合われているご両親、ご家族に関心はすごくある。関心はあるんだけれど、目的性がないっていう、そこがキーポイントなのかもしれないですね。

 

 

亜:今思ったのが、自分自身が自分自身でわからないこと、そこにこそあわ居は興味を持って対話してくれたり、関わってくれていると思うんですよね。他の場所って、何かをしようとしてくれる優しい場所なのですが、でも私を通り越したその先を見ている感じがしてしまう部分がある。目的がはっきりしている場所はいっぱいあるんですよね。でもそこでは、自分の目的がはっきりしていないと違うところに引っ張られちゃうし、その目的のためにそこに行くっていうのも、私の場合、いろいろなところに行こうと頑張ろうとしすぎて疲れてしまって。陽平には陽平の段階があって、その都度何に響くかも違うから。働きかけ自体を好まないので、そういう動き方にもだんだん効果がなくなってくる。でも、あわ居とか石徹白に行くのって、何が起こるかわからないから楽しみなんですよね。だからいつ行っても良いって思ってます。

あとは、滞在中に、あわ居で話していると、自分がすごくずれていたり、はみ出してたりしていても、そういうのは気にせずに、自分がどう感じているのかを、素直にその場で感じられる。普段の生活だと深く向き合いきれていないというか、本当に今自分が感じていることにだけ、シンプルに向き合うことってなかなか出来なくて。不思議とあわ居に行って話す方が、自分の一番気になっている先っぽのことだけを話せる感じがします。その時、その場で出会っている自分の気持ちに向き合える感じがするので、新しい感じがしますね。それはゆったり過ごせている反面、先にいそげている感じもする。自分が一番行きたい方向に行けるっていう感触がありますね。なんでそうなるのかはわからないけれど。それがあわ居に行きたくなる理由のひとつでもあるかな。

 

 

 

ーなるほど、ありがとうございます。これまで主に、陽平君に関する部分での体験にフォーカスしてお話して頂きました。次は孝二さん、亜津子さんそれぞれ個人としてのあわ居別棟での滞在の体感についてお伺いできればと思います。

 

 

孝: 僕らにとっては、旅ではあるんだけれど、ちょっと普通の旅とは違う旅になるなぁっていう、そういう期待がいつもあって。あわ居別棟で泊まって過ごすことで、何か自分の考えに変化がおきるとか、色んなことが起こりえるなぁっていう予感がある。一つ具体的なことを言うと、僕、あわ居別棟に泊まって、1泊だけして先にひとりで帰るじゃないですか。帰り、まぁまぁ時間がかかるんですよね。電車とバスを乗り継いで、5時間くらいかかるのかな。すると、家に着くのが18時くらいになるんですよ。自分の場合、家族旅行やひとり旅で、それくらいの時間に帰ってきたら、まず間違いなく外食するか、買って何か食べるんですよ。でも毎回、あわ居別棟から帰ってきたときは、家で自分で何かを作って食べるんですよね。これ面白くないですか?(笑)。どんなメカニズムでそうなるのかは自分ではわからないんだけれど、それをすることを身体が欲しているんですよ。次の日も、一人で起きて仕事の準備をするわけですが、そこでもやっぱり食事を自分で作るんですよね。何なんだろうなって(笑)

 

 

 

ー別棟に泊まられた時の朝やお昼に、あわ居の食事キットを購入されて、よくご飯を作られていますよね。別棟で料理をされる時の心境や料理への向き合い方は、多少日常と違っていたりしますか?

 

 

孝:違っていますね。心地よく作っています、、、、。毎回、あの時間は自分にとっては楽しい時間ですね。キッチンの窓から見える景色も好きだし、部屋の明るさとか。家で寝るのと、別の場所で寝るのとでは、起きたときの身体のコンディションとかいろんなモノの感じ方って違うから。あそこで料理するっていうのはとても心地良い体験ですね。

 

 

ーひとつの可能性として、外食よりも料理を作る方が楽しいっていう感触が残っているのかもなぁということはありえるのかなと思いました。外食は作ってもらうっていう受け身な行為ですが、それよりも自分で作る方が楽しいって身体がなってるのかなぁって。

 

 

孝:確かにそうかもしれないですね、疲れていてもシンプルに外食で済ます気にならないんですよ。それで、疲れつつもあえて料理を作り、その時間を後から振り返った時に、「あぁ良い時間だったなとか、おいしかったなぁ」と思うわけですよ(笑)。でもその後日常の中は、やっぱり外食もするし、お休みの日にごはん作るとかって全然しないんですけれど(笑)あ、でも前よりは料理を楽しく作るようになったかなぁ。

 

亜:料理の完成度も上がってきたよね(笑)

 

 

ー亜津子さんは何か別棟滞在中に個人的に印象に残っている出来事などありましたか?

 

 

亜:そうですね、、、、。最初初めてあわ居別棟に泊まった時は、「いつもと違う環境で仕事ができる、楽しい!」ってやっていて。そのワクワクがあって、いつもやれてなかったことに集中するっていうことをしていたんです。でも2回目以降は、それも勿体ないってなったんですよね(笑)。仕事は、いつもの場所ですれば良いやぁって。2回目以降は仕事をしなくなった。

 

 

ーその分、どんな風に別棟で過ごされているんですか?

 

 

亜:うーん、、、、。そう考えると、これをやったっていうのが、そんなになくって、、、、。何してるんだろう、、、。本棚の本読んだりとか、荷物の整理したりとか、、、、、。あ、そういえば何回もお茶飲んでますね。あの空間もあって。私、普段はついつい水分摂るのを忘れるくらいなんですけれど、あわ居別棟にいると、常にお湯を沸かして、飲んでますね。せっかく来たんだし、と(笑)。いつもとは違った風に過ごそうってなっているんですかね。やっぱり自宅に居ると、仕事中心で、日々やらなければいけないことが中心になる。あわ居別棟にいくと、そこから抜けられるし、それが全くなくなるから、たぶん自然にお茶を飲んでる。だから、普段からよっぽど自分はお茶が飲みたいんだと思う(笑)。本当はしたいけれど、なんでも諦められる部分が私にはあるから。水道から直接水を汲んでガブガブ飲んで終わるっていう、短時間で終わらせるところがあるんですよね。私せっかちなので、あわ居別棟のお茶の時間も、ほんとにまったり出来ているのかは分からないですが、自分にとってはだいぶまったりしてます。「あぁ、家に帰ったらこういう時間を増やそう」って思ったりもしていますね。

 

 

ー他に何か印象的なエピソードなどはありますか?

 

 

亜:そうですね、、、、、、。怖いっていうか、、、、。別棟で陽平が寝た後に、たった一人の時間になったんです。自宅に居る時も、勿論一人で起きている時間はいつもあるんですが、そういうのとは全然種類が違っていて、その時は無茶苦茶怖かったです。丁度その頃に、悩んでいた心境もあったとは思うんですが、、、、。すごい怖かった。ドキドキしつつ、不安もあり、静かでもある。だけど「あぁこの怖い感じ大事だなぁ」ってすごく思ったんですね。自分は18,19歳くらいの時にはじめて一人暮らしをしたのですが、その時にもいろんな不安がありました。具体的に何がということもなく、漠然とした不安ですね。けれど、自分一人でどういう風になってもいいっていう、自由さも同時にあるなぁってその頃感じていて。怖くて不安なんだけれど、あぁ自由だなぁって。当時は、お昼も夜も一人で家で過ごしていた時期があるんですが、その時の感覚を久しぶりにあわ居別棟で想い出した感じがします。その感覚が、自分にとっては嫌な感じがしない怖さだったんです。別棟ってこういう時間も持てるんだ、面白いなぁって。2階に居たり、1階に行ったり、両方の場所で過ごしてみたんですが、どちらにいてもそう思いました。そういう時間が持続したんですよね、それであぁ良いところだなぁって感じたんです。

 

 

ー怖いのに良いところだなぁ、ですか。

 

 

亜:そうですね、怖いんですけど、私にとってはその怖さと解き放たれている自由さっていうのが、たぶんセットとしてあったっていうのが、十代の頃の感覚なんですよね。不安もあるけれど、その中にワクワクもあるっていう感覚、、、、。素になるって感じですかね。親であるとか、仕事をしているとか、家族の一員であるとか、そういう立場を一旦どかした状態。素になっている状態って意外とあんまりなくって。そういうことを久しぶりに感じた時間でした。なにも目的がない時間。寝ても良いけれど、寝なくても良いし、やることも特になくてっていう、無の時間。しかも、そうやって過ごして良い場所でもあったから、うしろめたさもなく、そこに居られたという部分もあったんだと思う。自分の素を久しぶりに大事にできたなぁって、そういう余韻があった。それが今も継続している気がします。あ、でも継続出来たらなっていう感じかなぁ。

だから、今はもう三人それぞれにとって行く理由が全然違うんですよね。あわ居に行きたい理由が。やっぱり親だから、陽平にとって良い体験をって部分もあるけれど、自分にとっても、行く理由がある。

 

 

孝:うん、陽平のためだけに行っているってわけでもないよね。

 

 

ーなるほど、面白いですね。先ほど、目的や方向性があわ居にはないということに言及して頂きましたが、今ふと、もしかするとあわ居とか石徹白というのは、役割とか機能からはずれたところでのコミュニケーションが成立したり、そこからはずれた状態になりやすい場なのかなということを思いました。

 

 

亜:無目的の目的があわ居別棟にはあるというか。定まってはないけれど、何かがあるとか、何かが起きるだろうっていう、、、、、、。何も考えずにいられるっていうところですかね。そのままでいてくださいっていう場所。友達の家に泊まりに行って、「いいよ、好きにして過ごして」って言われても、たぶんそのままで居られないから。お世話になりますっていう関係性が既にあるし。

 

 

ーそういえば、別棟のトイレに居るときに、自宅の家と錯覚したというお話をされていましたよね(笑)。あとは、声のトーンが自宅にいる時と同じだというお話も印象に残っています。

 

 

孝:あぁ、トイレ(笑)。声のトーンもそうですね(笑) 

 

 

ー家ではないのに、家にいる感覚がするというのは面白いですよね。

 

 

孝:ホテルだともうちょっと緊張感があるし。

 

亜:ホテルだとホテルの客としての役割になっちゃうんですよね。あと、実家に泊まりに行っても、また違いますしね、、、、、。素になる感じ、、、、。穏やかな影響なのかもしれないですが、今、自分がすごく素になれてきてます。日常の中で。自分の思う理想の素に、より近づいていっている気がしますね。これまで余計なことを考えることが本当に多かったから。余計なことを考えない方向にどんどん進んでいっています。だから毎日が楽しくて。毎日が楽しいって言えることってあんまりなかったから。仕事のプレッシャーとか、人にどう見られるか気にしたり、自分の弱点を見つめすぎたり。そういうことを、無駄だなって思えるようになった。シンプルに、自分を受け入れて楽しめるようになったのかなって感じがします。さっき自分で話してて、素になる自分っていうのをあわ居別棟で発見したっていうのは、けっこう影響あったんじゃないかなって、ふと思いました。はじめて別棟に泊まった時は、その感覚を強く感じたけれど、2回目以降はそれがもうあまり意識されることなく過ごしていて。それと、1泊は家族3人で、もう1泊は陽平と2人でっていうのも、変化を楽しめて面白いなって。

 

 

孝:今話を聞いていて思ったのが、僕、石徹白に行くと、ひとりで散歩するっていう時間を作っていて。はじめて別棟に行った時に、「散歩行ってくるね」って出かけて、20分くらいで帰ってくるつもりが、2時間くらい歩いて帰ってきたんです。それで、たぶん2回目に泊りに行った時も、自分が思っていたよりもかなり長く散歩をしたんですね。それは、見ている風景だったりとか、聴こえる音が心地よくてついつい長くなってしまう、っていう風にこれまで思っていたんだけれど、今話を聞いてて、石徹白の中を散歩している自分が素になれているということなのかもしれないなぁって。いつもの役割を降ろして、素になっているのが心地よくて、自分は歩いていたかったのかなぁって、今考えていました。素になって歩いている時でも、頭の中では色々と考えてはいるとは思うんだけれど、その思考も心地良いんでしょうね。あとはやっぱり雪の山の風景はずっと見ていられるなぁって。それをずっと見てたいなぁって。その景色をずっと見て、また歩き出して、その先にまた違う景色があるんだろうなって思うと、あわ居に戻らず、ついつい進んじゃう。

 

亜:そういうの好きだもんね、見るとか、聴くとか。その行為に幸福を感じるところがあるよね。普段は理由をつけて、頑張ってそういう時間を作ろうとしているのかもしれない。

 

孝:快楽ですかね、音楽を聴くとか、映画を見るとか。快楽なんです、気持ちが良い。だから石徹白の風景を眺めている時も、幸せホルモンがでるんですよね(笑)。

 

 

ー身体がひらいていて、いろんな感覚が鋭敏になっているのかもしれないですね。

 

 

孝:うん、石徹白で散歩をしていることを思い出すと、身体がひらいているっていう言葉はすごくしっくりきますね。ひらいていることに、快楽を覚えているのかもしれないですね。心地よい。

 

亜:それは宿泊している時だからそうなるの?山に行けばそうなる?

 

孝:そうだなぁ、、、、近くの山に登っている時にはならないですね。それとはまた違いますよね。やっぱり石徹白の磁場なのか、あわ居別棟に宿泊しているその中での散歩だからなのか、、、。あ、でも旅行先で、ひとりでその町や土地を歩きまくるっていうのはずっとやってきてることだなぁ。

 

 

ー興味深いですね。最後になりますが、このインタビューを通して、あわ居別棟について「無目的な目的」というワードを出して頂いたことが、とても印象に残っています。その点について、最後に一言頂いてもよろしいでしょうか。

 

 

亜:私は進みたいって願望が常にあるので。ここではない所に進みたいって。今は持っていない価値観を加えたり。あわ居別棟はそういう所に、向き合いやすい場所だと思っています。私はとにかくあわ居別棟で生活をしてみようって、いつも思って過ごしています。生活をしようって。自分の中で、必死になって考えをめぐらせるわけではなくて。別棟で過ごしていれば、また何か思うかなぁとか、起こるかなぁみたいな感じ。目的なく過ごしているからこそ、何か大事なことも起こりうるのかなって。さっきの夜の怖い時間の話じゃないですけれど。自分が素でいさえすれば、それはいつでも起こりうると思いますね。

 

 

 

 (*1)あわ居のある石徹白集落は岐阜県内でも有数の豪雪地帯で、毎年平均3~5メートルほどの積雪がある。

 

インタビュー実施日:2022/5/16 聞き手:岩瀬崇

 

 


※以下は陽平君からあわ居別棟についてのコメント

石徹白で何をしたか

雪でかまくらを作った

お泊まり会をした

雪だるまを作った

ご飯食べた

終わり。

 

@陽平 楽しかった。