体験者インタビュー

 

vol.6

Kさん(匿名希望)/20代女性(2022年現在)

2022年3月「ことばが生まれる場所」を体験

 

 

ー約1ヶ月半前のことになりますが、Kさんにとって「ことばが生まれる場所」はどのような場でしたか?

 

 

今までの人生の中で、一番自分のことを他人に話した時間でした。そして今までで、自分のことを一番考えた時間だったなと思います。私はいつも忙しなく生きているので、自分に対する悩みが出てきても、その二秒後には違うことを考えてしまうんです。だから自分の事を集中して考えるということを、今までしてこなかった。でもあわ居に行った時はすごく自分と向き合えた。あれほど人に自分のことを相談したり、自分の人生を一からふり返って話す機会は初めてだったと思います。 

 

 

ー特に印象的だった場面などはありますか?

 

 

対話ですね。主に仕事のことや人間関係で悩んでいるという話をしました。その中で、これまで自分がしたことのない行動をすることに対して、自分自身が踏みとどまってしまっている部分があるのではないかということを強く考えさせられました。失敗することを恐れて、いつも同じAボタンを押してしまっている。それでいつも分かり切ったAが出てくる、というサイクルを繰り返しているのではないかと・・・。

Bボタンもあるのに、失敗を恐れたり、不慣れな状況にいくのが嫌で、自分はそれを押していないんじゃないかって。

 

対話の中でそういう仮説が出てきた時に、それは、まさにその通りだなぁと思ったんですよね。自分が求めていた言葉というか・・・。自分ひとりでは見つけられなかった解決策や自分の問題点が対話の中から紡ぎ出されていった。そのことがとても印象に残っています。あの時は、とにかく自分のことに悩んでいて・・・。何かを変えたい、自分を見直したいという気持ちがすごくありました。このままでは良くないから、解決策を見つけ出して、自分の人生を良いものにしていきたいという気持ちが強かった。その意味ではあわ居での時間はターニングポイントだったんですよね。

 

 

ーかなりの行き詰まりの感覚があったのでしょうか・・・

 

 

ずっと円の中でぐるぐる回っている感覚がありました。「どうしたいんだろう、どうしよう」という所で、抜け出せなくなっていましたね。変わりたいっていうポジティブな気持ちはあるんですが、自分一人ではもちろん無理で・・・。だから全く知らない人の所に行って、話をして、客観的に解決策を探ることが必要なんだなぁと感じて。それであわ居に行きました。

 

元々、友達や知っている人に悩みを相談するということが得意ではないんです。社会人になって、せっかく休日に会っているのに、その貴重な時間に私の悩み相談をすることが、向こうからすればつまらないと思ってしまう。もっと楽しく時間を使いたいと思ってしまう。ネガティブなことを話すのが、私自身、好きではないんですよ。それに、相手が話したいこともあるわけですよね。

 

だから、自分も腹を割って話せないし、友達に知られたくないことだってあります。一方で、あわ居での対話では、それまで誰にも共有していなかった悩みを初めて話せました。そのことがすごく自分にとっては大きかったです。あわ居ではお金も発生しているので、「この時間は完全に私の時間だ」っていう所で、時間を気にすることなく話せたのも大きかったかなと思いますね。加えて、対話の質についても、気を遣われていないと言うと少し語弊がありますが、正直な回答をしてくださいましたよね。率直な回答や、本心からの言葉を頂いたなということを思いますね。

 

 

ーそうした率直な言葉が返ってきたことに対しては、どのような感情が芽生えましたか? 

 

 

納得をしました。「確かにそうだな」という形で・・・。普段は他人に何か指摘されると心を閉ざしてしまう部分があるのですが。あわ居に言った時は、はじめての人との対話ということもあるし、自分自身が路頭に迷っている状況だったから。良い意味でオープンな状態でいられたんですよね。だからすっと言葉が入ってきて、100%素直に受け止められた。私が気付きたくなかった部分や、気づきたいとは思いつつも、認めようとしてこなかった部分が、言語になったことで、納得感がありましたね。とてもすっきりした。

 

言葉で整理が出来たことで、あわ居から帰ってきた後、自分からアクションを起こすようになってきているのかなと思います。その移行はスムーズにいった気がしますね。それですべてが解決したかと言うと、そういうわけではないですが・・・。新しい行動を起こす時のハードルが、自分の中では低くなった気がする。それはひとつ大きな変化だなぁと。

 

例えば仕事に関しては、以前よりも丁寧に人と接するというか・・・。そういうことを心がけるようになりましたね。以前は、自分のために指摘や注意をしてくれる人がいても、それに対して私はイラついたり、無視をしたりしていました。でも今は、仮に一度イラっとしても、自分の中に一度飲み込んで、色々考えた上で、回答を出すということが出来るようになり始めました。まだまだ足りない部分はありますが、そこはひとつ変われたかなって思います。あとは、自分の弱点が見つけられたので。新しいものに挑戦しないことや、失敗することを恐れていること。それがわかったことで、そういう部分が出そうになった時に、自分で気をつけるようになってきていますね。あわ居に行くまでの状態に比べれば、確実に数歩進んでいるなぁという感触があります。

 

 

ー他にあわ居の時間の中で印象に残っている部分はありますか?

 

 

あわ居の空間や石徹白という集落の中で、時間を過ごしたということ自体がとても印象に残っています。一言で言えば、非日常的な体験だったのだと思います。例えば、いつも暮らしている場所からすぐのマンションの一室で対話をしたとしても、日常から地続きな気がして、なかなか良い時間にならない気がするんです。なので、まずはあわ居という遠く離れた、初めての環境に行って、一泊するということがとても大事なことだったのだと思います。あわ居の周りにはお店を含め、刺激的なものがほとんどないですよね。もし周りにかわいいお店があったら、大事なことを話した後でも、そちらに気がいってしまって、話した内容を忘れてしまうということが起きうると思うんです。その意味でも、あわ居や石徹白は、目にも心にも優しくて、すっと自分がゼロに還れるような場所だと思います。

 

元々の目的が自分のことを話したり、相談をするという部分にあったことも影響しているとは思いますが、それを差し引いても、自分と向き合うことに集中しやすい環境だったなと。あとは、私はモロッコに縁があるので、モロッコの話をしたりとか、あわ居でモロッコ料理を食べられたという所もとても印象的ですね。対話が大事な目的と言いつつも、ご飯もとても楽しみにしていたので。胃も心も満たされたっていう言葉がありますが、まさにそれだったなと思います。ご飯がとてもおいしかった。

 

 

ー新幹線やバスなど乗り継いで、片道六~七時間ほどかかって、あわ居にアクセスして頂きましたよね。そのアクセスの悪さについてはどのような印象でしたか?

 

 

私にとっては移動の時間もすごく大事な時間でした。もともと海外での滞在経験もあり、長距離移動に慣れている部分もありましたが、それ以上に、移動中に自分のことをじっくり考えたりして、向き合う状態へとだんだんセットされていった気がします。東京から離れるにつれて、だんだんと心が落ち着いていって・・・。真剣に考えられるようになっていきました。確かに道中は長かったですが・・・。全く負担には思いませんでした。

 

丁度、こうやってインタビューを受けている今も、家の近所で工事をしていて、雑音が部屋まで響いてくるのですが・・・。雑多な環境にいると、イライラしてしまったり、うるさいなぁと思ってしまって・・・。集中力も削がれてしまいますよね。でもあわ居や石徹白は本当に静かで、自分を邪魔してくるものが何もなかった。だからこそ、落ち着いて考えることが出来ましたし、考えていない時間は逆にリラックスして時間を過ごすことが出来ました。その意味では心が落ち着いた時間でもあった。たぶん、私は普段、常にイライラしてしまっているんですよね・・・。日常でイラっとするポイントが多いから、心が忙しなく動いてしまっているんです。加えて、あれもしなければ、これもしなければという風に、常に考えてしまって・・・。ストレスに侵されているなぁって・・・。

 

 

ーあわ居の空間についてはどのような印象をもたれましたか?

 

 

周りが川に囲まれているので、館内でも常に水の音が聴こえますよね、それがとても良いなぁと思いました。薪ストーブも心地よかったですし、館内の照明もすべて落ち着いた色でしたよね。家や会社にあるような真っ白な蛍光灯だと、「何かやらなきゃ」とか「仕事をしなきゃ」といった風に自分はなってしまうんですが・・・。そういうことが一切なかった。入ってすぐの土間やダイニングの部分も、余計な物が一切なくて、とても落ち着ける空間でした・・・。私、ほんとに落ち着いたんですよね・・・。入った時の感動から始まって。部屋に入って少し時間が経っただけなのに、もうずっと自分がこの場にいたかのような・・・。そんな落ち着きを感じました。初めて来た場所だっていう感じが全くしなくて・・・。自分と空間が馴染んだ感じって言えばいいんですかね・・・。自分がよそ者じゃない感じ。例えばホテルにいると、自分はよそ者だなっていつも思うんですが、あわ居ではそういうのが一切なかった。あれだけ空間に自分がフィットしている感覚は、自分の人生の中で初めてと言っても良いと思います。

 

あとは、あわ居のご家族とも一日同じ建物にいたわけですが、それに対しての抵抗や違和感も全くなかったです。例えばホテルだと、隣に人がいても全く知らない人が泊まっているわけですよね・・・。ホテルの廊下で人とすれ違ったり、ホテルの部屋に従業員が入ってくるとかってストレスを感じると思うんです。一方、あわ居は、普段みなさんが家族で住んでいる家に泊めさせてもらうという形になっていて、普通に考えれば、朝、顔を合わせたりもするし、接する場面も多くて、そこには違和感があるはずなんですよ。でも、そこへの違和感が全くなかったんです。そういう意味でも、自分はそこに馴染んでいたんだと思います。家族の一員になったような感じもあって、安心感がありましたね。何も気にしなかったし、気にならなかった。

 

 

最後にあわ居について、一言頂けると嬉しいです。

 

 

あわ居はとにかく環境が素晴らしいと思います。自然があって、川に囲まれていて、古民家でといったハードの部分での環境が一つ。もう一つは、自分のためにじっくり向き合って話を聞いて下さるという意味での環境ですよね。その環境の中で自分を見つめなおす経験が出来たということが、自分にとってかけがえのないものになったと思います。精神状態がかなりしんどい時期だったので、悩みを吐き出して、軽くなったなって・・・。あの経験があって、今は割と心が落ち着いている状況なんです。私にとってあわ居は、悩みや問題がまた出てきた時にまた頼りにしたい場所ですね。だから気軽に行く場所ではないと思っています。もし必要な時期がきたらまた伺えればなと思っています。

 

 

インタビュー実施日:2022年5月21日  聞き手:岩瀬崇