あわ居では今年の9月7日~9日の日程で、上智大の田渕ゼミのフィールド学習の受け入れをしました。田渕先生は、あわ居を主宰する岩瀬崇の大学時代からの恩師であり、今年が4回目のフィールド学習受け入れとなります。
今回のフィールドワークでは事前のオンラインでの学生さんへの個別ヒアリングの内容や田渕先生のご意向を踏まえながら、以下のような2つの目的を設定しました。
①石徹白地区でのフィールドワークを通して、これまでの生活環境では触れることのなかったその地域特有の(あるいはオルタナティヴな)生き方や考え方、暮らし方に触れ、自身の生き方や考え方を省みるきっかけを得る。
②地域社会の現状や実情に触れることを通して、これからの自身の生き方や社会との関わり方を思考し、問い直し、それらを新たに形作っていくうえでの示唆や新鮮なパースペクティヴを得る
フィールドワーク当日は、こうした目的意識のなかで、石徹白で長く住まわれてきた方への聞き書きや、移住者との交流、白山中居神社正式参拝、聞き書き報告会などを実施し、盛りだくさんのプログラム内容となりました。ここでは時系列順に、田渕先生に撮っていただいた写真を挿入しながら、フィールドワーク当日の様子を振り返ってみたいと思います。
●初日(9月7日)
田渕先生と学生のみなさんはお昼過ぎにあわ居にチェックインをし、簡単なオリエンテーションを済ませたあと、石徹白の地域づくりの概要について、NPO法人地域再生機構 副理事長で、NPO 法人やすらぎの里いとしろ理事長でもある平野彰秀さんにお話をうかがいました。学生のみなさんは、事前に石徹白の地域づくりや現状についての事前学習を済ませてきたこともあり、それぞれの関心に応じて学生の側から平野さんに質問をし、質問に対して平野さんがこたえるという時間が多くとられました。どの学生さんも熱心にメモを取りながら平野さんのお話に耳を傾ける姿が印象的でした。過疎化が進むなかで、どのように地域を残していけるのかという課題に単純明瞭な答えはなく、その現場に身を置きながら、目の前の現実と向き合い続けながら試行錯誤を繰り返していく態度の重さを、それぞれがひしひしと感じたように思います。
その後、学生さんたちは石徹白中居神社に移動し、宮司の石徹白洋子さんによる正式参拝に参加しました。参拝後は、石徹白洋子さんが宮司となられてから取り組んできたことや、洋子さん自身の人生や生き方についてのお話へと移行していきました。今回のフィールドワークに参加した学生さんは5名とも女性だということもあってか、 のちに実施した振り返りの時間でも、洋子さんのお話が心に残ったという声が多く聞かれ、信念を持ちながら白山中居神社初の女性宮司の大役をつとめられるその姿、あるいはそこから発せられる重量のある言葉は、学生さんにとってもとても触発的なものであったことがうかがえました。
その後、あわ居に戻った後、少しの休憩とお風呂を挟み、夕方からは石徹白住民との食事交流会を実施しました。当日は移住者を中心に子どもを含めて十数名の方にお越しいただき、学生さんと先生を含めると20名を超える人数での交流会となりました。冒頭、それぞれに簡単な自己紹介をした後、各テーブルごと、3~4人ずつで食事を囲みながら、それぞれに話に花を咲かせている様子が印象的で、主流とは少し異なる生き方をされている方々との交流のなかで、学生さんが感じ取ったことはとても多かったと思います。
すでに就職活動を終えた学生さん、これから就職活動をはじめていく学生さん、子育て環境に興味のある学生さんなど、さまざまな境遇や関心があるなかで、「多様な背景を持つ方々との対話の中で視野が広がり、道は1つではないという安心感を覚えた」といった声や、「交流会の時に目にした地域の方々と子どもとの関わり方が新鮮で、地域の方々が子どもをあたたかく見守る姿勢を感じました」という感想、あるいは「レールから一歩外れた時に、強い自分を持っていないと路頭に迷ってしまうのではないかと逆に不安にもなったが、ここでしか感じることのできなかった危機感だったと思い、前向きに捉えたい」など、様々な感想が聞かれました。とても暖かい雰囲気に包まれた、稀有な時間であったと思います。
●2日目(9月8日)
フィールドワーク2日目は、2つのグループに分かれて聞き書きを実施しました。聞き書きとは、文字通り、人生の語りを聞いて、書き記すという行為であり、今回は石徹白に長年住まわれてきた上村マサエさん、上村すみえさんのお二人に語り手をお願いしました。事前に用意してきた質問なども取り入れつつ、約3時間にわたって人生のお話をうかがいました。お互いが初対面ということもあり、多分に緊張感がある状況のなかで、学生さんたちは話を掘り下げていくこと、話を聞き出すことの難しさに直面しながらも、現代の主流の価値観とはまるで異なる価値観を生きた方々とのお話に、大きな気づきをいただく時間になったと思います。簡単に要約したり、解釈をすることが困難なひとりひとりの語りに耳を澄ませることは、あいまいな状態に自身の身をひらくことでもあり、自身の生き方や世界の捉え方を問い直すことにつながっていくのだということを、同伴した私自身もあらためて強く感じた時間でした。
聞き書きを終えたあとは、石徹白集落唯一のカフェ&居酒屋「magoemon」でランチを食べ、再びあわ居に戻りました。学生さんたちは、田渕先生の指導のもと、聞き書きの時間にうかがった内容や、そこで得た気づきや学びについて、録音データなどをききつつ、模造紙にまとめる作業にうつりました。その後、夕食を終え、2日間を簡単に振り返るダイアローグを実施しました。
●3日目(9月9日)
3日目は朝食は済ませたのち、石徹白集落内にある農村センターに移動し、あわ居の岩瀬美佳子と移住者の加藤綾乃さんが中心になって運営されている「喫茶こだま」に参加しました。「喫茶こだま」は、石徹白に住まわれている様々な方が、いろんな垣根を取っ払いながら気軽に交流する場を定期的につくることを目指し運営されており、当日は赤ちゃんからご高齢の方まで様々な年代の方が集まるなかで、学生さんもその輪の中に入りながら、様々な世代の方との交流を楽しみました。
その後、11時からは、同じ農村センターにて「聞き書き報告会」を実施。前日に作成した資料をもとに、聞き書きの中で伺った、語り手の人生について報告し、またその中で感じたことや考えたことをグループごとに発表しました。発表後は、報告会にお越しいただいた地域の方からそれぞれにご感想をいただく時間となり、また逆に地域の方から学生さんに対して「石徹白に3日間滞在して思う、石徹白の魅力を教えてほしい」と、逆質問をされる場面もありました。とても和やかな雰囲気のなかで、普通にしていればなかなか出会うことのない「石徹白の方々」と「上智大の学生さん」との交流が目の前で生まれていることに、ファシリテーター/コーディネーターとしてかかわった私自身、とても触発されるところがありました。
報告会実施後は、バターチキンカレーを囲みながら昼食会を実施。昼食を食べながら、地域の方同士が昔話に花を咲かせ、そこで話される内容に学生が驚愕し、そこで生まれた興味から学生さんが質問をし、さらに語りは伸びていき……といった形で、普段、石徹白で日常を過ごしているだけでは、なかなか聞かれない話がどんどんと展開されていきました。その稀有なやりとりの生成の現場に、どのような意味づけが可能なのかは、簡単に結論づけることはできませんが、少なくともいえるのは、東京からわざわざ学生さんたちが石徹白にきて、聞き書きをし、そこで聞かれた内容を地域の方に報告したなかで、地域の方の中で思い出されたことや、触発されたことがおそらくあり、そうしたプロセスの絡まりあいがあってこそ、そのやりとりは生まれたということです。今後も、お互いが「まれびと」として出会いあうような、そんな場が作れたらなということを、ファシリテーター/コーディネーターとして強く感じました。
その後、フィールドワークを終え、東京に戻られた学生さんとは、オンラインでの個別の振り返りをし、今回のフィールドワークの中で学んだことについてのレポートを提出していただきました。その中で学生さんから聞かれた声をいくつか引用してみたいと思います。
・言語化することで自分の価値観が浮き彫りになるという点において、今回の合宿では、「言語化すること」の大切さを学びました。また、「身体で感じる」という視点も新たな学びでした。五感を通して自分が何を心地よく感じるのかを無意識に捉えることが、自分が何を大切にしていることや興味・関心があることを見つける手掛かりになるのだと思いました。石徹白に訪れて、大自然を肌で感じることで、澄んだ空気や山の静けさ、地域の人々の落ち着いた暮らしぶりに触れる中で、普段都市で生活している中では気づけなかった身体感覚が蘇ってくるような感覚がありました。
・上村すみえさんのお話を伺い、生きる上で大切になるパワーを感じることができました。幼いころに戦争を経験されたり、石徹白で育ちながらも東京や八幡に出て生活し、それでも石徹白で暮らすことを選んで石徹白の変化を感じられながら生活されていたりするお話を伺い、与えられた環境の中で懸命に生活するということや、自分なりの選択をしたら決意を持ってやり続けるということの大切さを感じました。これから人生の転機に向かううえで、忘れないように生きていきたいと思いました。
・初めて訪れた石徹白では(昨年ゼミで訪れた)佐渡島との違いも感じながら、自分と向き合うことができました。多くの人生の先輩のお話を聞き、上智生としてこうあるべきという固定観念から少し 抜け出せた気がします。石徹白のコミュニティの温かさや高齢の方々の若い時のお話を知ったことで、数日ながらこの地域に愛着を持ったと感じます。
今回のフィールドワークでは、ファシリテーター/コーディネーターとしてこれまでの3回のフィールドワークとは少し異なる立ち位置での関わりとなり、当日はもとよりフィールドワーク後も、「あの内容で大丈夫だったのだろうか・・?」と自問自答する時間が多々ありましたが、こうした学生さんの声にとても勇気づけられるところがありました。と、同時に、やはり学びというものは私たち(ファシリテーター/コーディネーター)が起こすものではなく、あくまで学生さんがフィールドの中で自ら起こすこと、あるいは個々の身体に起こることなのだということを改めて感じ、今後の場づくりを考えていくに際しても、とても重要な気づきを頂いたとおもっています。
本フィールドワークに関わってくださった石徹白のみなさんをはじめ、お越しくださった田渕六郎先生、5名の学生さんにあらためて感謝申し上げます。今後も、いろいろな可能性を探りながらフィールド学習を実施していければと思っています。
